【第9回フィールドワーク】2022年6月 ハイブリッドコミュニティーとしての魚つき林を歩く

「ハイブリッド・コミュニティー」とは、シャルル・ステパノフらによって唱えられた、マルチスピーシーズ人類学の概念枠組みである。それは、共有された場における、人間、植物と動物の間の長期にわたる多種の連携の形式のことである。

共有された場や共通の生息地そのものでさえも不動の背景ではなく、人間や動植物や大地や水や大気がとともに絡まり合って変動しつづけるダイナミックなありようを捕まえようとする。

南シベリアのトゥバの「アアル・コダン(生きる場所)」というハイブリッド・コミュニティーでは、家族と家畜がともに暮らしている。そこでは、すべての要素が相互に依存しあっていて、人間による精霊に対する過ちが家畜に病気をもたらし、ヤクの供犠はアアル・コダン全体に繁栄と健康をもたらすとされる。

港千尋著『風景論』に出てくる「魚つき林」の記述を読み、魚つき林は日本の「ハイブリッド・コミュニティー」ではないかと思いついた我々は、真鶴の「魚つき保安林」、通称お林に出かけた。

 

真鶴港近くの食事処で魚料理を食した我々は、最近は潮の関係で魚があまり獲れないが、このあたりでは、古くから森の養分が海に流れ込み、おいしい魚が獲れるのだと聞いた。その後、お林展望公園から遊歩道の照葉樹林の森を歩いた。

 

江戸時代中期に小田原藩の命で15万本のクロマツが植樹され、明治期には御料林となり、真鶴町に払い下げられた後に、魚を育む森として保全され、今日でもクロマツやクスノキの大木が生い茂っている。大きな木が残っているのが印象的だった。お林を抜けると、番場が浦に辿り着いた。

約15万年前に噴出した溶岩によって作られたとされる真鶴半島を行けるところまで行くことにした我々は、「うしのくそ」周辺まで歩いた。その後、遠藤貝類博物館付属のジオパークの展示を見学し、最後に、山の神社に立ち寄った。平成11年に建て替えられた時に建立された石碑には、「古くから魚付保安林の守り神として漁業者が大漁祈願をしてきた山の神社であるが・・・」とあった。

漁業者がお林の守り神に大漁祈願を祈るというのは、海と山林が切り分けられたものだと考える我々の精神性から見ると奇妙に見えるかもしれないが、その二つは、もともと切り分けられることなく存在していたのではないかということを、そこで改めて想像した。

魚、人間、木々、様々な動植物たちは、共通の場としての森と海で、森と海をも変動させながら絡まり合って、生と死を紡いできたのではなかったか。


 


 

 

 

 

 

 

 

 

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