【第12回フィールドワーク】2022年11月 静岡・大井川のフェラルおよびその他

我々調査隊は、ふたたび静岡県に出かけた。東京方面からの交通渋滞が激しく、幾つかの計画の変更を余儀なくされたが、まずは、清水港近くのフェルケール博物館を訪れた。1906年に茶の海外輸出のために開かれた清水港とその関連の展示が印象的だった。輸出用茶箱のラベルの展示には、釘付けされた。

JR草薙駅前で開かれていた新人Hソケリッサの野外公演とトークにも立ち寄った。「周辺化」されている路上生活者とパフォーマンスをつうじた演者の「中心化」、あるいは「閉じられた」空間におけるダンス展示と「開かれた」場所での生との連続線上のダンスという、二つの相容れない要素の間の「両行」的な課題設定が感じられ、非常に迫力のあるパフォーマンスだった。

静岡県には、東から安倍川、大井川、天竜川の川が北から南に流れている。今回は大井川をターゲットとして歩いてみた。牧之原平地には、大茶園が広がっていた。下流から川根本町にかけて放棄された茶園が散見された。 

我々の課題は、茶業というモノカルチャーが、後継者不足や価格の低迷などの要因によって一部で持続が困難になり、茶畑が放棄された後に、野生の動植物がどのように入り込んできて増殖し、自然が新たにどのようにリメイクされてきたのか、また荒れた自然につぎ込まれる人間の再生努力によって生み出される「何か」を探るための手がかりを得ることだった。我々は、こうした問いを、フェラル(野良化)をめぐる問題系と呼んでいる。
 

それは、人類学者アナ・チンらによって提唱されている研究手法と枠組みである。アナ・チンらは、人間が作り出した構造物や観念という媒介項を経て、自然がどのように捻じ曲げられて人に支配されるようになるのか、逆に、人間がその構造物や観念を放り出した時に、自然に何が起きるのかという視点から、人間と非人間の「世界制作」を探ろうとする(詳細は、『思想』2022年10月号、「人間以上にリメイクされる自然――『マツタケ』以後のアナ・チン、フェラルなものの人類学」参照)。

 
フェラルに関して、調査隊のメンバーの一人は、以前、放棄された茶園を歩いていて、キジやタヌキなどの野生生物を見かけたことがあると語った。人間の側のフェラルの再利用に関しては今回十分に探ることはできなかったが、幸い我々は、行政の暖かい協力を得て、大井川流域における茶業の現在に関する大まかな見取り図を得ることができた。大井川の上流の長島ダムでは、ダムの水の管理が下流域の茶産業の維持と発展に大きな役割を果たしてきたことも分かった。


エドワード・ポズネット『不自然な自然の恵み』を読む

日時:2024年6月21日(金)20:00~  形式:zoom   エドワード・ポズネット『不自然な自然の恵み 7つの天然素材をめぐる奇妙な冒険』桐谷知未訳、みすず書房(2023年)を読みます。 本を読んだ人であれば、どなたでも参加できます(無料)。 氏名・所属・関心を明記の上、...