【番外編 フィールドワーク】2022年8月 3年ぶりのプナン(マレーシア・サラワク州)

2020年初に始まったCovid-19の世界的な流行のためしばらく行くことができないでいたが、マレーシアにおける感染者数が下火になったことと、それゆえの旅行規制緩和措置を踏まえて、20228月に3年ぶりで、マレーシア・サラワク州の狩猟民プナンのフィールドを訪ねた。ちょうどその1年ほど前から、こちらも世界的に流行していた豚熱ウイルスの影響で、フィールドとその周辺地で、プナンに食糧として最も好まれるイノシシが死滅していた。今ではイノシシが食べられないことのほうが、彼らにとっては、おおごとのようだった。

プナンの居住地に着くと、若者たちに「おまえ、日本の映画スター、スギオノ爺さんって知ってるか?」と尋ねられた。知らなかった。高齢のポルノスター・スギオノが今、インドネシアやマレーシアの地下で大流行りなのだ。

驚いたのは、1年くらい前から、プナンの居住地に無料で電気とWi-Fiが来ていたことだった。彼らは3万円程度のスマホを買って、いつでも充電ができるので、Wi-Fiに接続して、エロ動画を見ていた。

Whatsappに登録し、頻繁にボイスメッセージのやり取りもしていた。ただ、上述した豚熱コレラやイノシシの死滅などの情報には一切アクセスしておらず、プナンはだいたい、イノシシはCovid-19にやられたと語った。

これまた驚いたことに、300人くらいの居住地に約10台の4輪駆動車があった。アブラヤシ企業がどんどんと新たな農園を開発しており、企業の計らいで、プナンは車を手に入れたのだった。アブラヤシ企業にとっては、遠方から働き手を連れてくるより、周辺地に住んでいるプナンたちを労働者として組織するのが、最も効率的だと考えたのだろうか。プナンは、車で賃労働の現場に通い、Wi-Fiに接続して、スマホでやり取りをし始めていた。

しばらくの間、アブラヤシのプランテーションの中に小屋を建てて、プナンとともに狩猟と漁撈の暮らしをした。ある月夜の晩に、小屋の中で、天空移住の神話が語られた。意味合いが今一つ分からなかった。次の夜は、ひどい雷雨だった。神話のことを考えていたら、プナンのアニミズムの完成形が語られているように思われた。3年ぶりのプナン行を含めて、『アートコレクターズ』No.163, 2022年10月号に「天空のかなたのマディン ボルネオ島のプナン、アニミズムの完成態」という題で、そのことを寄稿した。

エドワード・ポズネット『不自然な自然の恵み』を読む

日時:2024年6月21日(金)20:00~  形式:zoom   エドワード・ポズネット『不自然な自然の恵み 7つの天然素材をめぐる奇妙な冒険』桐谷知未訳、みすず書房(2023年)を読みます。 本を読んだ人であれば、どなたでも参加できます(無料)。 氏名・所属・関心を明記の上、...