【第4回フィールドワーク】 2022年2月 房総半島へ

高度成長期以降に東京に高層ビルが建てられ、高速道路や空港が造られたが、それらに必要な土砂は房総半島から運ばれたという。一時は、ダンプがひっきりなしに行き来し、周辺住民に健康被害や騒音、交通災害をもたらした。土砂が削り取られた山がまるごと無くなったり、あるいは削られた山の跡地には、その後しだいに、東京方面から残土や産廃が運び込まれた。それらの処分が今日においてもなおも続けられている。また房総半島には多くのゴルフ場が集まっている。「ゴルフ場銀座」とも呼ばれている。今回我々は、都市の開発と周囲の自然をめぐる関係を探るため、房総半島を視察した。



標高数十メートルになる残土の山に登ってみた。こんなに高くまで、いったいどうやって積み上げたのだろうか。棘のある植物で傷を負い、すすきが繁茂する山のてっぺんの平地に立つと、そこには、陶器やプラスチックの破片があり、動物の糞もあった。そこにはまた、たしかに生物がいるのだ。


残土の山を下りてみて改めて見回してみると、そこは、荒れ果てた神社の奥の宮だった。奥の宮は三方を残土の山に囲まれていた。とても不思議な光景だった。我々は土砂が崩れて聖地を荒らしたのかどうかを尋ねるため、本社に行ってみたが、そこには人の気配はなかった。他の場所でもそのことを尋ねてみたが、残土に囲まれた奥の宮の廃墟の由来を知る人はいなかった。

廃棄物の最終処分や再生処理、焼却施設についての講義を受けた後、チバフォルニアを通り抜け、1400ヘクタールの広さの盤洲干潟を訪れた我々は、夕陽に照らし出される富士の高嶺と京浜の美しい光景に迎え入れられた。自然の作り出す干潟の波紋にしばし心を奪われて見とれていた。周囲の静寂に比して、前方からは海の波の音、左と右からは水鳥の鳴き声だけが聞こえてきた。


自然は別の場所でも、ふいに我々の前にその姿を垣間見せた。7,8頭のイノシシが、我々の百メートルほど先を勢いよく走って横切ったのである。直後我々は、足跡を確認しに行った。



山あいに造られた幾つものゴルフ場の通り抜け、チバニアンに立ち寄った。現在南極はN極、北極はS極だが、過去にはそれが何度もひっくり返っていたことが分かっている。77万年前に、最後の逆転が起きているが、市原市の田淵には、地磁気逆転地層がくっきりと残っている。印象的なのは、地磁気が一気にひっくり返ったのではなく、ひっくり返る前に長期の移行期間がある点だ。それは、盤州干潟で見た、海である場所が徐々に広がって陸をなくし、逆に陸が広がり海が狭まっていくという潮の満ち引きの運動の中に、海でもなく陸でもない、どっちつかずの状態を絶えず含んでいるという自然の摂理とパラレルであるように思われた。



我々は山肌を通って、巨大な産廃最終処分場の横をすり抜け、山を削り取っている採取場に辿り着いた。土砂の採取は、決して過去のことではない。いままさに山が削られている最中なのである。



最後に辿り着いたのは、山が削られ、その場所がそのまま運動公園となった場所である。旧浅間山は、浅間山運動公園になった。山を一個分まるまる削り取ってしまう人間の力とは、なんて途轍もないものであるのか。我々は、その事実にしばし佇んだ。

 

 

 

エドワード・ポズネット『不自然な自然の恵み』を読む

日時:2024年6月21日(金)20:00~  形式:zoom   エドワード・ポズネット『不自然な自然の恵み 7つの天然素材をめぐる奇妙な冒険』桐谷知未訳、みすず書房(2023年)を読みます。 本を読んだ人であれば、どなたでも参加できます(無料)。 氏名・所属・関心を明記の上、...